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白華山 甘南美寺、伊自良で心静まるひとときを

山県市甘南美寺(かんなみじ)とは

山県市長滝の地。伊自良湖湖畔に、風情ある石段の続くお寺があります。言い伝えによれば鎌倉時代、高阿弥、那智阿弥の行者夫婦が伊勢国で救世観音を授かり、故郷の美濃国山県郡釜ヶ谷(現・釜ヶ谷山、標高696m)山頂に祀ったのを起源に、1570年(永禄13年)頃、白華山 甘南美寺として創建されました。

お寺の宗派は禅宗の中の臨済宗妙心寺派。本尊は千手観音菩薩(秘仏)があり檀家をもたない参拝寺で、古くから人々の心の救いの場としてそこに在り続けています。
美濃霊場の一つであり、「美濃三十三観音霊場第13番」「美濃四国88札所の第65番」「美濃七福神(恵比寿)」があります。

阿吽の二体の仁王像が守る「山門」をくぐると石灯篭が続きます。
境内の空気は澄み渡り、中心となる「本堂」は屋根構造の複雑な八棟造りです。大正時代に建築された、お寺の中では一番新しい建物です。
「本殿」正面には馬頭観音が祀られており、奥には秘仏、千手観音様がいらっしゃいます。
「拝殿」の天井には八方にらみの雲龍図が描かれています。(昭和期・画/山口瑞雨)
「旧本堂」は約350年前に建築された、お寺の中では一番古い建物です。
かつて伊自良に時を告げていた「釣り鐘堂」の鐘は、今では時たま素朴に鳴り響きます。

また天然記念物が毎年、境内の四季を彩ります。
・樹齢約350年〝エドヒガンザクラ〟(幹周り3.2m、高さ20m/岐阜県指定)
・樹齢約100年以上〝ハナノキ〟の大樹(山県市指定)
・樹齢200年〜250年〝モミノキ〟(山県市指定)

甘南美寺で生まれ育って———これからのお寺のお話

ぐるりと山に囲まれた甘南美寺は静寂と凛とした雰囲気が漂っており背筋が伸びるよう。清らかな水の流れにすうっと心が休まります。
明治5年より僧侶の妻帯が国から正式に許可を受けました。この歴史あるお寺で、初めて生まれ、育ったのが、現住職が横山正文さんです。横山住職はお寺に仕えて40年。70年以上お寺に暮らしていますが、子供の頃から「全く何も変わらない」とおっしゃいます。

春は雲のように境内を覆うヒガンザクラ…
梅雨がくるたび、紫陽花が花開き、色鮮やかに石碑や灯籠に苔生し…
夏は新緑とヒグラシの声に包み込まれ…
秋は赤く燃えるようなハナノキや紅葉…
冬は緑のモミノキに降り留まる白い雪…

毎年、その繰り返す自然の様は何百回と変わる事なく続いているのでしょう。それは「いつか見た光景」のようであり、私たちに安心感をもたらしてくれます。時代の変化に伴い、人々の生活スタイルが変わろうとも、お寺は何も変ることなく、人々の心のよりどころとして、ここに「在る」のです。

信仰の対象であったお寺が昨今では観光化しています。パワースポットブームから始まり、神社仏閣を巡る女子旅や神社ガール、御朱印ガールも増えています。そんな世情について横山住職は「それに対応していかなければ行けない部分と、守り続けなければいけない部分をどのように住み分けていくか…今、お寺が考えることです」「いろいろな事をやるといろいろな事が見えてくるものです。ですから、やってみてみることです」と話されます。

近年、副住職に息子の大周さんが就任しました。夏には竹燈籠が真っ暗な境内を彩る「燈す」が開催されます。事前に竹燈籠を作る会があり、参加者の作品も境内に点灯されます。
新しい事に挑戦しつつ、人々に開かれ続けるお寺でありたい———副住職の大周さんは、築かれたお寺の大切な部分を受け継ぎながら、新しい風を吹き込みます。

奥の院と甘南美寺の伝説

寺の奥の山道に、手引き観音から初まり、石仏33観音が並び、奥の院・甘南備神社のある釜ヶ谷山の山頂へ導きます。このお釜をふせたような丸みをおびた格好の山は甘南美寺の伝説の地。

———昔昔、ある夜、伊勢の二見浦に月が3つ4つも現れたように明るい光がさし、魚が海の底へ隠れてしまい漁が出来なくなってしまいました。漁師たちが光の元をたどると、それは美濃の国の高い山。頂上にお寺があり、中の仏様から美しい光が差し出ていました。お寺の和尚によると仏様が「ヤマブキの咲く里に移りたい。そうすればお参りする人が楽になるだろう」と夢枕に現れておっしゃる、という。それを聞いた人々は麓に新たに寺を造り御祀りすると、伊勢の海では魚が前より捕れるようになったとか…このお寺こそが甘南美寺なのです。———

今でも釜ヶ谷山から伊勢湾が肉眼で見え、訪れた人々に神秘的な気分をもたらします。

私たち先祖が繰り返し訪れたお寺はこんなお寺だったのかもしれません。変わらない甘南美寺の穏やかな時の流れは参拝者の心に寄り添い、心を鎮めるとともに、お寺に過去の記憶を読み取っているのかもしれません。

※2024年8月YAMAGATA BASE HPからの移管分