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心地よい緊張とおもしろ気分で創作活動/絵本作家 高畠純さん

絵本の世界との出会い

「夏休みが大好きなんです」と話すのは、岐阜県山県市で暮らす絵本作家の高畠純さん。高畠さんの絵本は、ゆったりした作風と絶妙な色使い、そしてユーモラスな動物たちが登場するものが多く、大人が読んでも楽しく、そして美しい絵本です。

高畠さんは、名古屋市生まれ。絵本作家をはじめるきっかけとなったのは、高校3年の2学期を過ぎた頃、書店の企画する世界の絵本原画展を見たときでした。それが、元々絵を描くことが好きだったことを思い出させてくれた瞬間となり、「こういう世界いいなあ、絵本を描く人になれたらいいなあ」と心の中に絵本作家への思いが生まれたときでした。

大学4年生となり、周りは就職活動をはじめます。しかし、高畠さんは就職したくないという思いが強くあり、両親にもその思いを伝えて、大学に研究生として残ろうとしました。そのとき両親は意外と簡単に許してくれたのですが、「よく許してくれたと思います」と、当時を振り返ります。

ほどよく卒業間際に、短大での講師はどうかと、ゼミの教授から紹介されました。「短大、わっ、夏休み、春休みがある!」と二つ返事で「行きます!」と答え、大学卒業後は、岐阜の短期大学でデザイン講師として働きはじめました。「すごいラッキーでした」と、笑顔で話す高畠さんは、長い休みが大好きなのです。

大学ではデザインの講師として、また自身の研究課題であるシルクスクリーンの制作を行い、展覧会出品や個展を開催したり、同時に絵本の創作をしていました。どれも全部、今後の自分自身にとって大切な要素であったと高畠さんは言います。

ぐちゃぐちゃさせない

大学教員の仕事は、数年前に辞めてしまいましたが、教員をしていた時期は、学生との関わりが楽しく充実していました。今でも卒業生たちとの交流があり、そんな時間が楽しみでもあるようです。
現在、高畠さんは1ヶ月半に1冊ほどのサイクルで、年間6~7冊ずつ自分のペースで絵本制作を行っています。20代の時に絵本館から出した『ピースランド』という絵本は、気負いを無くし、得意とするシルクスクリーンで表現したもので、自身の原点だといいます。

「苦しく、苦労して描いた作品はなんか面白くない。いいように見せたいという気持ちはよくないよね。さっとストレートに表現できて、スカッと制作、ぐちゃぐちゃさせない。」
と高畠さんはいいます。絵本は楽しく作ることがとても重要なのです。

高畠さんの絵本は、動物を題材にすることが多いのですが、それは人間をそのまま登場させると生々しすぎて、ユーモアを感じさせなかったりするから。ゴリラやペンギン等の動物の姿を借りて描くことで、人間の心の中をユーモアに転化し、笑って楽しめる絵本にしています。読者は、例えそこにペンギンが出てきても、本物のペンギンを想定しているのではなく、すでに心の中では人間世界に置き換えて絵本を見ています。

さまざまなことを想像させる絵本には、視覚的要素が大切なのだと高畠さん。最初にどの書体を選ぶのか、文字の大きさはどうするかなど、伝えたいイメージや絵とのバランスを決めることから絵本制作は始まります。絵と文章が一体となり表現されることで、子どもだけでなく大人にも素直に喜んでもらえるような絵本になることを大切にしているのです。

絵本作家を目指す人たちと

高畠さんは、京都、大阪、福岡などを訪れ、絵本作家を目指すひとたちを教えています。そこでは様々な出会いがあり、絵本作家を目指している人との出会いは、刺激にもなるそうです。出会ったみなさんの絵本が、出版されて多くの人に認められることは、本当に嬉しいと高畠さんはいいます。
 
そんな高畠さんに、絵本作家の日常をたずねてみました。
「今は毎日が日曜日。土日は大好き、当然夏休みも大好き。みんなが休みだと嬉しいし、休みが多いと嬉しい。毎日自宅の仕事場で朝9時ころから絵本制作にとりかかり夕方まで一気に。でも時々、ひとり打ち合わせと称して、気分を切り替えに外にも出かけます」と高畠さん。

高畠さんの「夏休みが好き」という言葉から、休んでいるときの楽しい気持ちや、気持ちにゆとりがあることで、人は優しくなれる。みんながやさしい気持ちでいることが大切なのだと気づかされます。そんな優しさにあふれる高畠純さんの描く絵本が、世界の子どもたちのところにこれからもたくさん届けられることでしょう。

※2024年8月YAMAGATA BASE HPからの移管分