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栗の木のある暮らし/武山茂活さん

日々を丹精込めて

山県市大桑(おおが)にある武山茂活さんの栗畑は、武山さんの自宅からほど近い、小高い山のふもとにあります。「うちの栗の木より、他の家の栗畑のほうがもっと立派なんだけど」と照れくさそうに話します。手入れの行き届いた畑の真ん中には、青いイガの実が一杯なっている大きな栗の木があり、枝が横に広がったその木は枝ぶりがとても立派で目立ちます。「この木が枯れたら終わりなんだ」と武山さん。50年近く武山さんが見守り続けている大きな栗の木。横に横に枝が広がり、どの枝の栗の実にもしっかりとお日様があたる様に剪定してあります。日陰を作らないように上に伸びた枝を切る、どの枝を生かすかを見極めるのが剪定の重要性なのだと教えてくれました。

生まれた時から自宅には栗の木があり、現在畑に植えてある栗の種類は筑波栗と利平栗だそうです。利平栗は武山さんと同じ大桑に住んでいた土田健吉さんが、大粒で美味しい栗を求めて研究を続け、中国産の栗と日本産の栗を掛け合わせてできた栗の品種。利平栗は実が大きく甘みもしっかりとした栗で、虫がつきにくい丈夫な品種なのですが、大粒で割れやすい面もありとても貴重な栗です。

そんな利平栗も買うことのできる『山県市ふるさと栗まつり』が、毎年10月の第1日曜日に、四国山香りの森公園で開催されています。今では、秋の恒例行事になっている栗まつりですが、武山さんが自治会長をしていた約20年前に、栗栽培の盛んなこの大桑地区で何かをやろうかと意見を出し合い、町議会議員の発案で栗まつりとして始まりました。役場の補助を受けながら手作りで始めたおまつりは、自治会主体で出店したり、カラオケ大会をしたそうです。その後高富町との合同開催を経て、実行委員会形式となって今に続いています。

土地の実りである栗を守る工夫

武山さんの畑には、大きな栗の木の傍らに1メートルくらいの高さの細い栗の木があります。その木には栗の実が4個くらいなっています。「これは利平栗で4年前に植えたんだ。桃栗3年、柿8年って言うでしょ。うち植えてから3年間は実を取らずにじっと待つのが大切」と話す武山さん。おいしい栗の実が取れるように木が育つまでには年月の積み重ね大切なのだと教えてもらいました。

栗の木が実をつけるのを妨げる病虫害についてたずねると、その年の気候もそういったことに影響するそうで、昨年はマイマイガが発生し、葉を食べられたことで花が咲かず、栗の実がならなかった所があったそうです。クリタモバチも厄介な栗の天敵ですが、丹波栗や利平栗はこういった虫などがつきにくい品種なのだそうです。もうひとつの天敵は栗を食べにくる猿。武山さんの畑の周りには鉄線があり、猿除けが設置されています。武山さんと猿の攻防戦は何年にも渡り、現在はトタン板を下側に貼り付けその上に電流の通る鉄線を3段巻いてあり、猿よけのために、畑の周りの高い木の枝も切ってあります。「猿はすごいんだ、簡単にジャンプして柵を通り抜けたり、柵を高くしても木の枝をつたって侵入してくるんだ」と武山さん。トタン板は息子さんと二人で貼ったそうで、「猿も必死なんだよ。柵の周りに子猿が待っているんだ」武山さんは感心したり、同情したり複雑な気持ちのようです。

栗での繋がり

武山さんは以前、建築会社に勤めながらの兼業農家で、仕事をしながら農作業の合間に栗の木の手入れをしていたそうです。仕事柄高い所が平気だったのですが、2年前に腰を悪くしてしまい今は高めの脚立にもたれた形で作業しています。栗の木は元肥、追肥、お礼肥の3回肥料をあげます。中腰になってヒバサミで栗の実を傷つけないように拾う作業はとても大変です。青いイガは触れても痛くないのですが、実のなった茶色のイガは、かたいので棘が刺さって大変です。虫が入る前に、雨が降っても拾わなければいけないので。

栗の収穫は、9月中旬から下旬にかけて行い、青いイガが茶色いイガに変わる時が目印となります。「今年は息子と一緒に拾うんだ」と武山さん。仕事の合間をぬって息子さんがきてくれるそうで、ちょっぴり嬉しそうに話します。「栗の実がなったらうちで食べたり、親戚や近所の人にあげたりするんだけど、あげるほうが多いかな」。実ったばかりの栗をみんなで分け合ってほくほく食べることで、とっても心が満たされています。そんな時間が大事だそうです。

栗の食べ方は、栗ご飯・栗きんとん・渋皮煮などさまざまですが、武山家ではシンプルな食べ方をしています。皮の剥いた栗だけを少しのしょう油で炊いた栗煮が、栗の甘さが引き立ちおやつになったり、おかずになったりととても重宝しているそうです。武山さんの畑からの帰り道にとっても背の高い栗の木がありました。手入れのされていない大木になった栗の木。人の手が入らないとこんなになってしまうのかと。
武山さんの丹精込めた横に広がった栗の木がとても心に残ります。

※2024年8月YAMAGATA BASE HPからの移管分