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ふるさと山県市の豊かな資源を活かす/MARI工房 伊藤麻里さん

杉の木のようにのびのびと

  山県市谷合にある山をすこし登った静かな場所にある伊藤製材所さんの中に、伊藤麻里さんのMARI工房があります。MARI工房のまわりには、木材が並んでいるので心地良い木の香りが漂ってきます。木の温もりを感じるつくりになっているMARI工房の中には、大きめのデスクとレーザー加工用の機械が整然と置いてあり、デスクの上には製作中の可愛いコースターが並べてありました。

MARI工房では、杉材やコルク素材のレーザー加工商品の作成、販売を行っています。主にコースター、名刺、看板等で、すべてが受注生産となっています。木は放置していくと、日に焼けたりカビが生えたりします。そのため、作業は簡単そうに見えて実はとても手間がかかるそうです。模様の彫りを深くするために何度も時間をかけてレーザー加工を施したり、加工後に木のヤニがでるので、丁寧にふき取ったりしていきます。例えば杉の木片は軽いので時間が経つと反ってしまいます。木目を縦と横に貼り合わせて反りをなくして平らにして、木の特性を生かして製品を作っていきます。手渡された麻里さんの名刺も、木からできていてとても存在感のある繊細な彫りで素敵な名刺です。「色々試して失敗したりして大変苦労したんですけど、出来上がると嬉しくて 本当に楽しく仕事をしてます。父からはこの名刺は名刺入れには1枚しか入らないねと言われてます」と、麻里さんは笑顔で話します。

私は都会より田舎が好き

麻里さんはこの地で生まれ、幼い頃は友達と野山をかけめぐり、山に登ったり、たまには擦り傷を作ったりして、のびのびと日が暮れるまで遊んだそうです。高校生まで山県市で過ごし、愛知県の大学に進学しました。初めて親元を離れて、一人暮らしをしたそうです。最初は家を出れた事に少しワクワクしたのですが、周りが賑やかなことや、人の多さに息苦しさを感じてホームシックになったときもありました。このまま都会で就職するのは自分には向いていないと感じ、大学を卒業したら山県市に帰りたいと強く思ったそうです。ただ、山県市での就職はなかなか難しく、麻里さんは実家の家業を生かせる仕事はないだろうかと考えはじめました。麻里さんの実家は創業60年の伊藤製材所。大好きな山県市で地域貢献が出来ること、山県市に住めること、実家の廃材が活用出来ること、自分はパソコンを扱えること。そんないくつかの条件が重なる面から、今のMARI工房を思いつきました。「レーザー加工の機械の導入や事務所の建設等、様々な面で親に支えてもらった」と麻里さんはいいます。機械の動かし方から一つ一つを手さぐりでスタートさせ、たった一人で麻里さんは仕事に取り組んでいます。機械購入等で金銭的プレッシャーも感じますが、持ち前の明るさで毎日仕事をしています。

自分のペースで丁寧な仕事

「ゆっくり事業が進んでいってほしいです。 大々的に売れるより口コミで浸透していって自然な感じで行けばいいのかな」と麻里さんは話します。
「ここは本当に静かで心が安らぎます。夜は星がとってもきれいに見えるんですよ!この場所で大好きな仕事もでき大事な家族と一緒にいられて多少不便でもそれが私にとって大事なことなんです」と、強く話されます。それは麻里さんがこの自然溢れる緑豊かなこの場所を愛おしむように、この地にしっかりと根付いた生活をしている満足感から出た本心なんでしょう。

ほんの数十年前までは、日本の子どもたちは自然の中で遊ぶ事が当たり前でした。川で遊んだり森で虫取りをしたり木に登ったり、それによって様々な学びを体感できました。今ではそれが出来ることの方が貴重な体験となってしまい、何か大事なものを忘れているように思います。麻里さんは小さなころからの体に感じている素直な感情でそれを欲し、それが周りの人たちからのたっぷりの愛情で受け止められており、物質的な満足感より精神的な満足感、五感を大事にしているんだと感じられます。麻里さんはこれからもこの地で仕事をし生活をしていきます。今後は、子どもたちが喜んでくれるような木の香りのする木製パズルを製作していきたいと考えています。ゆっくりと着実に夢を形にしていくMARI工房の今後がとても楽しみです。

※2024年8月YAMAGATA BASE HPからの移管分