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シャワーに美容の付加価値をつけた会社/株式会社田中金属製作所 代表取締役社長 田中和広さん

水栓バルブ部品製造から常識を変えたシャワーヘッド開発へ


近年、様々な高機能を持つシャワーヘッドが広く販売されていますが、その中でもウルトラファインバブルと呼ばれる超微細な泡を生み出すシャワーヘッドは、美容などに嬉しい作用を示すと言われています。そのウルトラファインバブル機能がついたシャワーヘッド「Bollina(ボリーナ)」を生み出したのが、山県市美山エリアに本店がある、1965年創業の株式会社田中金属製作所2代目、代表取締役社長の田中和広さんです。

会社の2代目として生まれた田中さんは、「赤子の頃から工場で育てられました」と話します。ただ親からは会社を継げとは言われず、「楽な仕事をやれ」と言われてきました。しかし、5年間別の企業で働いた後に田中金属製作所に入社。そして「気づいたら継いでいた」と笑います。

山県市美山エリアは水栓バルブ発祥の地であり、数多くの工場が集まっています。現在では水栓金具の国内出荷額が約4割を占めるほど。同地に本店及び美山工場のある田中金属製作所は、長年水栓バルブ部品の製造を行ってきました。田中さんは2003年に代表取締役社長として、現会長から会社を引き継ぎますが、不況などの影響で倒産の危機が訪れたこともあったそうです。

なんとか会社を存続するために新たな商品企画に取り組んでいたとき、取引先からの要望で「節水」を目的にしたシャワーヘッドを製作しました。その後、テレビの通販番組で取り上げられ1.5万本の大ヒットを記録。販売後のレビューやデータを分析し、さらなる改良を重ね、どんどん人気商品となっていきます。

自ら演販売したことが追い風に


当時、約1万円という高価格のシャワーヘッドを受け入れてもらうことは難しく、なかなか売上にはつながりませんでした。しかし、2012年12月、東京にある生活用品などを取り扱うショップの店頭で、シャワーヘッドの実演販売をする機会が訪れます。実演販売で田中さんは「今話題の美顔器です」と商品特徴を表現し、ウルトラファインバブルで満たされた水の中に、お客様ご自身の手を入れてもらうようにしました。そこで商品の魅力と感動をダイレクトに伝えると、2日で30本もの販売につながったのです。

それから田中さんは毎週末店頭で実演販売を実施。「社長自ら実演販売をする」という話題性と商品の特徴で大きく風向きが変わり、有名テレビ番組で特集が組まれ、ウルトラファインバブル機能がついたシャワーヘッドは世の中に広がっていきました。「今は競合も多いですが、ウルトラファインバブルについては、私たちが0を1にしたと自負しています。」と田中さんは言います。

お客様と直接触れ合うことで成長できる


自ら実演販売を行った理由を尋ねると「社員を平日働かせた上に週末まで働かせられない。私は代表だから休みはありません。当時は年間5,500時間働いている人の話に感銘を受けており、人に負けない努力をしようと思っていました。」と話します。

田中さんは「伝える先に感動があって、感動の際に購買がある」という言葉を大切にしています。その想いを表すかのように、田中金属製作所では、製造から販売まで一貫して行える自社一貫体制が特徴です。現在では、従業員も実演販売を実施し、「売り場に立つことで一番大切なお客様の声が聴ける。お客様の喜びの声を聴けることは作り手にとって一番うれしいこと。そして、お客様からいただいた意見を商品に生かすことが何よりも大切。」と感じています。

お客様の声から次々と新しい商品を生み出している田中金属製作所では、同時に、若い社員の意見も積極的に取り入れ、昨年は会社の持っている技術を結集した、キャンプグッズを製作しました。今後もこのようにお客様と、そして従業員と共にどんどん新しい商品を開発していくそうです。

水栓加工技術で山県市のブランド認知を上げたい


現在ウルトラファインバブルの技術を美容だけではなく、医療や農業の分野で貢献したいという想いがあり、海外での認知を広める行動も活発にしています。そして、同じくらい大切に考えているのが、地域貢献です。ふるさと納税返礼品を通じて、自社の商品や山県市を知ってもらうこと。そして、きちんと利益を上げて、税金を払うことが会社の存在価値だと考えています。

最後に山県市への想いを尋ねると、「みなさんが、使っている水道の蛇口のパーツのどれかは、私たちがつくったものだと思います。水栓バルブの技術は金属加工技術ですから、それを生かして水栓という枠に囚われない技術をお見せできる商品を生みだそうと、どの企業も動いています。山県市の企業が一体となって様々なことに取り組み、各企業が山県市を発信していくことも大事なこと。将来的には、水栓バルブの技術が海外の人にも受け入れられるようにできたらいいと考えています。」と、答えて頂きました。

世に出せる商品を持つような企業が、どんどん出てくる可能性があるのが山県市。「水栓バルブ発祥の地の山県市」だからこその、強い思いとプライドを持ってこれからも田中金属製作所のチャレンジは続きます。