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山県ハヤシライスの味をつなぐ/bistro sanglier久助 石神英樹さん

皆を元気に!

山県市には、地元の有志の方が集まって『山県ハヤシライス研究所』というハヤシライスを作ることにこだわった人たちがいます。山県市高富の里山かおり街道沿いの山県早矢仕ライスを食べることができるお店「bistro sanglier久助」のオーナー兼シェフの石神英樹さんにお話を伺いました。「最初は『一國会(早矢仕ライス研究所)』という名で15名からスタートしたんです。きっかけは2011年の東日本大震災の時、ボランティア活動に参加したのですが、何か自分たちにできることがあるのではと思ったんです。山県市も被災地と同様に年配の方が多く独居の人も多いです。もし地元で災害が起きた時には、行政に頼るだけでなく深い連携が必要だと痛感しました」と石神さんが語ります。そんなとき山県市美山地区出身の早矢仕有的氏が友人に滋養をつけさせるため、牛肉と野菜を煮たものを振る舞ったと言われる早矢仕ライスに着目したそうです。栄養たっぷりでこれなら皆元気になれる。どうせ作るならきちんとしたものを作りたいと、素人集団ですが自分たちで何でもやる意欲で始めたそうです。

石神さんたちは、震災の翌年から活動を開始します。地元の祭りで出店したり、近郊のスタジアムで地元のプロサッカーチーム応援のために出店したりと、奔走していきます。みんな素人なので玉ねぎをくだけで疲れてしまいました。玉ねぎだけで年間3トン位、牛肉は100人分で7キロ必要で、年間4,000食から5,000食を作りました。牛肉は飛騨牛を使ってます。メンバーは仕事をやりながら集まり、ルーの作り方も試行錯誤で大変でしたが、地元の食材を生かしたレシピを開発することができたそうです。

早矢仕ライスレトルトの完成

ハヤシライス研究所はソースとしての山県ハヤシライスを生かせないか、カレーに勝てないのか日々研究を重ねていきます。そして山県市でハヤシライスを食べられる店を作ることが、ハヤシライス発祥の地としてより象徴的ではないかとの意見から、調理士の免許を取得している石神さんに白羽の矢が立ち、2014年にこの店をオープンします。石神さん自身もお店をオープンしたことで忙しくなり、それぞれのメンバーも多忙でイベントに参加しづらくなったので、翌年、石神さんのアイデアで早矢仕ライスのレトルトを開発することになります。

石神さんは店舗経営と同時進行で、山県早矢仕ライスの味をレトルトで再現できる業者を探し、13回ほど試作を繰り返し、メンバーで検討を重ねながら、最終的に肉も提供しレシピも渡し早矢仕ライスのレトルトが完成できたのです。「早矢仕ライスレトルトの利益は出てないです。そもそもそういう事に利益を求めてないですね。災害の時、レトルトの方が本当に重宝します。お湯を沸かして 温かいもの食べれますし、牛肉と玉ねぎとマッシュルームが入って栄養価も高いです。それで元気になってもらえることが本当にうれしいです」と石神さんは話します。

頼れる兄貴のいる店

東日本大震災や神戸、九州などさまざまな災害場所に駆けつけるエネルギッシュな石神さんはどういう生い立ちなんですか?の質問に「親から橋の下で拾った子だと、言われたんです。だから自分で生きていきなさいと常々言われてました。兄弟が上に2人下に1人。家の商売が八百屋でしたので皆忙しく働いており、見よう見まねで自分の食べるものは作ってました。」と石神さんは話します。生まれた所は山県市の柿野というところで、当時はたった15名で全校生徒だったそうです。1985年に地元の高校を卒業し上京して飲食関係の仕事に就き13年間東京で働いたのです。その後、山県市に戻ってきて洋食のお店を開こうと考えたのですが、洋食を食する文化がまだ浸透してないので、当時盛んだったゴルフ場の造成など、建築関係の自営業を営んでいました。

「いろいろな業種の仲間がいますので、何でもできると自信をもっています。誰も引き受けないことがあるとしたら、自分がやるつもりでいます。僕らの年代は消防団員を卒業して次の世代に引き継ぎましたが、まだまだ若い世代に負けたくないし、誰かが行動を起こせば何人かの人を助けられるんじゃないかと思っています」と石神さん。ハヤシライスを食べられるお店がいると追い込まれてオープンしたお店でしたが、いつのまにか5年目に入りました。シェフの人柄なのかここに来るお客さまの半分が食事目的で、残り半分が石神さんに話を聞いてほしい人だそうです。このお店は石神さんの天職であり万全の態勢でお店にでています。

美味しい空気の中で

東京での生活は楽しい半面どこか人とのつながりが少なく感じ、思いきって山県に帰った石神さん。いろんなしがらみもあり実際の生活は大変ですが、それを上回る人との出会い、つながりを感じているそうです。自然豊かで空気がきれいで肩のこらない生活が気に入っています。「今年の春新たにキッチンカーも購入して機動力がでました。どこでも行けますよ!高齢の父も元気で活動しており尊敬してます。ただ母親にこのお店に来てもらえなかったことが心残りです」と語る石神さん。誰かのためにすることが自然にできる場所この山県で美味しい早矢仕ライスを心を込めて煮込んでいます。

※2024年8月YAMAGATA BASE HPからの移管分