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人の手が作り出す、人にやさしい柿むきのカンナ/梅田弘司さん

伊自良地区の干し柿作り

山県市伊自良地域の平井地区には市の名産品にもなっている、伊自良大実柿(伊自良地域北部にしか存在しない岐阜県飛騨・美濃伝統野菜の一つ)という渋柿で作る連柿(干し柿)があります。連柿のもとになる、伊自良大実柿は11月上旬から中旬ごろ収穫をむかえます。

伊自良大実柿は小ぶりな柿で細長くずんぐりとしているので、皮をむく作業が大変です。毎年、各農家が一晩で400~500個の皮をむくので、気が遠くなります。そんな渋柿の皮をむくのに欠かせないのが、柿をむくカンナです。地元のみなさんが多く使うカンナがあると聞いて、カンナ作りの職人、梅田弘司さんを訪ねました。

これからをつなぐ若者の存在

弘司さんがカンナづくりをはじめたのは10年ほど前。以前は水栓バルブ発祥地である美山地域で、水栓の蛇口を鋳物から加工して旋盤加工できないところを研磨する仕事を40年ほどしていたそうです。

「父が平成元年に亡くなりましたが、亡くなる2~3年前までカンナを作っていました。そんなころは他の集落にも作る人がいて不自由はなかったのですが、その人も亡くなり作る人がいなくなってしまったので、家内から自宅で使うカンナを作ってほしいと頼まれて、残っていた父の道具を使って作ってみたのがはじまり。でも3年ほどはうまく作れなかった。」と弘司さんは当時を振り返ります。

幸い家にたくさんの道具が残っていたこと、子どもの頃から父親の作業する姿を見ていたので、弘司さんは試行錯誤しながら、カンナを作り続けたそうです。今では、弘司さんのもとへ、カンナ作りの技術を受け継ごうとする人たちが集まるようになりました。周囲の人の支えもあり、最近はなんとかカンナ作りの技術を残せていけそうかな、と弘司さんは感じているそうです。

柿の皮がむきやすい弘司さんのカンナ

弘司さんの作る柿の皮むき用のカンナは、竹を細く割って、1ケ月ほど乾燥させてから、刃をつけて作ります。生の竹はやわらかいのでカンナには向かず、また、先端に刃をつけるので乾燥しておかないと刃が外れてしまうためです。刃には柱時計に使われていたゼンマイをカットしたものをつかいます。ゼンマイは片刃で薄いので、使いやすいものに仕上がるそうです。

それから、竹の端を刃物で削り、カンナをかけて表面をなめらかにして先に刃をつけます。刃の下の竹を斜めに糸ノコギリで切って形を作って、使いやすい長さに竹を切り、ヤスリで角を滑らかにして出来上がりです。現在弘司さんが作っているカンナは、年間100丁程です。柿をむく人の高齢化と、若い人があまり柿むきをしなくなってしまったこともあり、以前ほど数は作らなくなったそうです。最近では伊自良大実柿を広くみなさんに知ってもらおうという活動が広がり、カンナ作りや連柿作り体験のイベントも企画し増えてきました。これからもカンナを残していけると弘司さんはとても嬉しそうです。また、3年ほど前にはナイフの専門雑誌の取材があって、弘司さんや隣の集落の人が作った柿むき用カンナが紹介されたそうです。

もうまもなく、弘司さんが作ったカンナを使って地元のみなさんが丁寧に皮をむいた伊自良大実柿は、串に通されて横一列に3個ならび、縦にわらでつながれて10列ならぶ、山県の名産品へと姿を変えていきます。年に一度オレンジ色になる11月中旬ごろに伊自良平井地区を訪れてみるのはいかがでしょう?おいしい連柿は12月のお楽しみです。

※2024年8月YAMAGATA BASE HPからの移管分