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自分を信じて「音色」と「形状」をひとつに/Kazu Guitar Village 長屋一成さん

身近にあった木工とギターの存在

「父も兄も大工なんです。亡き父、今は兄の作業場を間借りしてるんです」と話すのは、山県市相戸の緑豊かな山合の麓にあるKazu Guitar Villageの長屋一成さん。ギター製作を全て一人で行なうマスタークラフトマンです。長屋さんはこれまで、国内外の有名ミュージシャンのギターを製作してきた卓越した腕を持ちます。

長屋さんは山県市で生まれ中学、高校生の時から音楽が好きでバンドを組んで演奏をしていました。いつしか、大工だったお父さんの仕事場で、自分のギターを作り始めた長屋さんは、演奏することよりも、製作することに夢中になっていきました。

専門校の卒業を控えた時期、知人からの紹介もあり、少量多品種でギター製作の全行程に携わることができる企業の長野県に有った木曽工場に入社します。ギター製作の各工程はもちろんのこと、資材の仕入れや品質管理、出荷まで広く担当し、数年後には木曽工場の責任者となりました。

「楽器製造業界も決して良い環境ではないので、優秀な人材でも将来を考えて辞めていく人もいます。10人入って残るのは1人か2人ですね」と長屋さんは話されます。

ふるさと山県の地へ

しばらくして、木曽工場から名古屋に転勤となりギターやベースのオーダー製作とリペア工房を開設し、長屋さんはより深く製作に取り組みました。さらには、ギター製作技術やリペア(修理)技術を、本格的に習得したいと望む人達の為に、日本で初めて設立された学校の講師となり、製作・リペア・開発などの技術や知識をその基礎から学ぶ事ができる科やミュージシャンを育てる養成機関の名古屋校ディレクターも経験します。そうした実績もあり、名古屋直営店の店長とクラフトマンを兼務していたそうです。

そんな中、2011年に会社から東京転勤を伝えられた長屋さんは、熟考の末自分の生まれ育った場所で、自分の工房を持つ道を選択します。

「正直30代だったら東京に行っても良かったんですが、もう東京だと年齢的に管理の仕事が主になり、ギターを作れないのは辛いでね。ギターを作りたいと想い入った会社で、様々な経験や素晴らしいミュージシャンとの出会いや人脈を作れたことに本当に感謝しています」と、長屋さんは当時を振り返ります。

1年の準備をかけ2012年11月にギターやベースのオーダーメイドを中心に、調整・修理・カスタマイズを行う自らのブランド”Kazu Guitar Village”という名の工房を立ち上げました。長年に渡りギターメーカーに籍を置き、その経験で得たお客様とのやり取りの中で、求めている”音色””形状”をひとつにして行く事、オーダーメイドという仕事に魅力を感じたそうです。

山県市に工房を置く理由を尋ねると、

「地元に帰りたいという思いが強かったですね。山県市が好き、岐阜県が好きなんです。」と長屋さんは教えてくれました。

工房でギターが出来上がるまで

ギター製作工程は、まず木材からテンプレートを使ってベースとなる形を切り出します。これは木工作業です。その後塗装してパーツ組込・弦張り調整まで。通常の形であれば3か月位製作期間がかかりますが、凝った形は5~6ヶ月かかります。自然な染料は薄く、何度も塗り重ねていくため塗装に時間をかけます。

素材は全て天然の木を使用していますので、ゆっくり時間をかけて特にネックの部分は完成後に反り曲がりが出ない様に慎重に時間をかけて削りながら作ります。素材は主に北米産のメープルやアッシュが多く、それ以外に高価な黒檀(エボニー)、紫檀(ローズ)等もあるそうです。

オーダーが入った時、そのお客様の為に1本を作ると強く思います。自分が今まで作ったギターをサンプルとして常置してありそれを弾いてもらってどうカスタマイズしていくか?を探っていき、どんな音色を求めているか知る為にその方の演奏を聞きに行くこともあります。自分のやり方を強要するのでは無く、むしろお客様様の要望を長年培ったノウハウや経験値で一緒に形にしていきます。 「どれだけ相手の方を理解できているか1つ1つのパーツを組み合わせていく最終工程のセットアップが1番緊張しますね」と長屋さん。

長屋さんは、ギター製作と並行してギターの調整や修理等も行なっています。名古屋発のバンドメンバーも工房を訪れるそうで、これからミュージシャンを目指す人をサポートしたいと考えています。最近はギター製作に興味のある人にも教えているそうです。

ふと工房の横をながめると、片隅には玉ねぎがつるしてあります。「おふくろが畑仕事が大変になってきたので、見様見真似で同級生やバンド仲間と畑を耕したりして、玉ねぎやいろんな野菜を作っています。長年離れて暮していたので両親のそばにいてあげたいんです。でも逆に助けて貰ってることもありますね」と長屋さんは話します。

「音楽が好き!自分の憧れていたミュージシャンの方に合えてその人ギター製作をできたことは本当にクラフトマンとしての醍醐味を味わえました。今はこの地で大変なのはあたり前で、自分が好きでやっていることなのでこのままこの形でいきたいんです」

長屋さんは大事にしてる人達と自然豊かなこの場所で音楽を愛し、人を愛し1日1日を大切に過ごしています。

※2024年8月YAMAGATA BASE HPからの移管分